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神田 径(かんだ わたる)

東京工業大学 科学技術創成研究院 准教授
多元レジリエンス研究センター 火山・地震研究部門/地球惑星科学系

2010年より東京工業大学の隔地施設である草津白根火山観測所に勤務しています。主に電磁気学的手法を用いて、火山の構造や噴火に至るプロセスなどを研究しています。

火山性地磁気変動の抽出


公表論文 Fujii and Kanda (2008)  Geophys. J. Int. 175: 400-414

概要


私たちは、火山体内部の熱的状況を把握するために地磁気連続観測を行っています(図1)が、観測される地磁気変動データには、いろいろな種類の変動成分が含まれています。そこで、火山活動に起因する変動を抽出してやる必要がありますが、そのためには、他種の変動との性状の違いを理解する必要があります。
地磁気データに含まれる変動成分のうち、最も大きな変動を示すのは電離層・磁気圏変動ですが、これは地球外に起源があるグローバルやリージョナルな変動なので、参照点データとの線形関係で表現できます。主磁場変動は、想定している数年の観測期間に比べて変動の周期が極めて遅いため、定数として扱えます。それから、太陽活動に起因するSq、海洋潮汐、気温に起因する変動がありますが、これらは、概ね決まった周期(12時間あるいは24時間、半年あるいは1年)の波群として扱えます。一方、私たちが求める火山性磁場変動は、温度変化に起因しているのでゆっくりと変動し、他成分と関係しないローカルな変動のはずです。そこで、これはトレンド的な変動であると考えられます。
以上の考えに従えば、変動成分は主磁場以外の3つのグループであり、その3つを分離する手法を考えれば火山性の磁場が抽出できることになります。従って、火山性磁場変動を抽出するためのモデルは、平均値を除いた観測値をトレンド、ある周期の波群、外部の参照データと相関する成分、観測ノイズ、の4つの成分に分解したものと書くことができます(図2)。それぞれの成分について与えられた拘束条件の下、カルマンフィルターを用いた時系列解析によって、各成分を分離する方法を開発しました(図3)。
この方法の優れている点として、外部磁場成分の推定には、火山から離れた地磁気観測所のデータを参照点として使用することを想定していることが挙げられます。これによって、火山近傍の観測点をすべて火山モニタリングの用途に使用することができるので、人的・経済的コストを減らすことができます。
図1:口永良部島火山における地磁気観測点(2014年8月3日の噴火で消失)。 図2:地磁気変動成分の4成分(トレンド成分+周期成分+外部磁場成分+ノイズ)への分解。 図3:分離された地磁気変動成分。(a)元データ (b)トレンド成分 (c)周期成分 (d)外部磁場成分 (e)ノイズ成分。

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