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神田 径(かんだ わたる)

東京工業大学 科学技術創成研究院 准教授
多元レジリエンス研究センター 火山・地震研究部門/地球惑星科学系

2010年より東京工業大学の隔地施設である草津白根火山観測所に勤務しています。主に電磁気学的手法を用いて、火山の構造や噴火に至るプロセスなどを研究しています。

阿蘇火山中岳周辺の比抵抗構造


公表論文 Kanda et al. (2008)  J. Volcanol. Geotherm. Res. 178: 32-45

概要


阿蘇火山における最近80年間の火山活動はすべて中岳第1火口で発生しています。日本でも有数の活動的火口の一つで、2014年〜2015年にかけても水蒸気噴火からマグマ噴火へと移行する活動を行いました。中岳第1火口の最近の活動では、次のような一連の活動サイクルがあることが知られています。すなわち、静穏期には湯だまりと呼ばれる火口湖を形成しているのですが、活動が活発化してくると、湯だまりは乾燥し、火口壁や火口底では赤熱現象が観測されるようになります。さらに熱が供給されると、湖水は干上がり、水蒸気爆発等を起こしながら火孔が開口し、ストロンボリ式噴火へと移行してゆきます。そして、しばらく活動が続いたのち、再び火口底が閉塞し、湯だまり状態へと戻ってゆく、というサイクルです。2000年以降活動が活発化し、本格的な噴火活動が懸念されていました。地磁気変化も観測されていて、蓄熱過程にあることが示唆されていました。その消磁源は第1火口南西部の深さ200〜300mに推定されていました。
このような活動サイクルを繰り返すには、火口底への熱供給を繰り返し行う安定的な地下構造があるはずである、という予想をし、2004年から2005年にかけて比抵抗構造調査を実施しました(図1)。中岳を横切る四つの測線で二次元インバージョンを行った結果、第1火口周辺の深さ数百メートルに低比抵抗領域が存在し、地磁気変化源の位置とほぼ一致することがわかりました。 一方、80年間活動を行っていない第4火口地下には相対的に高比抵抗の領域が存在することがわかりました。
他の地球物理学データ等を参考に中岳周辺の比抵抗構造を次のように解釈しました。活動的な第1火口の直下では低比抵抗体が確認され、その最上部は湯だまりをシールする変質粘土、その下位は、熱水溜りと解釈しました。そして、火口へ熱を輸送する高温の火山性流体を供給する通路が確立している、と推定しました(図2)。この熱水溜り+難透水性のキャップは、水蒸気爆発を可能にする特徴的構造です。 一方で、静穏な第4火口の地下には、固結したマグマに対応する高比抵抗体があり、過去の噴火で、火口底へ火山ガスを供給する通路が破壊されているため、噴火も火山性地震も発生していない、と解釈しました(図3)。
図1:中岳火口周辺で実施した比抵抗構造調査の観測点。 図2:中岳第1火口を横断する二次元比抵抗構造とその解釈。 図3:中岳第4火口を横断する二次元比抵抗構造とその解釈。

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