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神田 径(かんだ わたる)

東京工業大学 科学技術創成研究院 准教授
多元レジリエンス研究センター 火山・地震研究部門/地球惑星科学系

2010年より東京工業大学の隔地施設である草津白根火山観測所に勤務しています。主に電磁気学的手法を用いて、火山の構造や噴火に至るプロセスなどを研究しています。

口永良部島火山の蓄熱過程


公表論文 Kanda et al. (2010)  J. Volcanol. Geotherm. Res. 189: 158-171

概要


屋久島の西14kmに位置する火山島で、過去に水蒸気爆発を繰り返してきました。2014年8月に34年ぶりとなる噴火が発生し、2015年5月の噴火では火砕流が集落に迫ったことから、噴火警戒レベルが5に引き上げられました。私たちは、2000年8月より山頂部で地磁気全磁力の連続観測を行ってきましたが、時系列解析の結果、2001年以降の地磁気変動が火山活動の活発化と強く関係していることがわかりました(図1)。地磁気変動は、現在の活動火口である新岳火口周辺の地下で熱消磁が起こったことを示唆するものでした。変動量を説明する等価磁気源の位置を見積もってやると、2002年夏頃までの初期の変動源は、火口南西側の海抜下200m付近に推定されました。2003年以降の変動については、一様消磁した楕円体状の領域が火口直下の海抜300m付近で拡大した、というモデルで説明できました(図2)。
この磁気源周辺の地下構造を明らかにするために、私たちは、AMT法による比抵抗構造調査を行いました。2次元構造を仮定したインバージョンの結果、火口周辺の極浅部に薄く広がった低比抵抗領域と、深さ200〜800mの山体全体に広がった低比抵抗領域が存在することがわかりました。これらの低比抵抗領域は、熱水変質によって生成されたと考えられる、透水性の悪い粘土を多く含む層であると解釈しました。初期の変動源は、深い低比抵抗層の下部付近に位置し、2003年以降の楕円体状磁気源は、地下水が豊富に存在すると考えられる二つの低比抵抗層の間に位置していることがわかりました。
これらの結果と地震学的・測地学的・地球化学的観測結果に基づいて、私たちは、次のような口永良部島火山の蓄熱過程を提案しました。初期段階では、まだ上昇経路が確立されていなかったため、深部に位置するマグマから供給された高温の火山ガスが、透水性の悪い深い低比抵抗層の下部付近で一時的に滞留しました(図3‐1)。その後、地震活動が繰り返されたことによって上昇通路が確立し、より大きなフラックスの火山ガスが低比抵抗層を通過して上昇できるようになりました(図3‐2)。高温の火山ガスは、低比抵抗層の上に広がる帯水層に達し、熱は、地下水を通して周囲の岩石に効率的に拡散しました。その結果、ガスフラックスの突然の増加と帯水層を通じた熱拡散が起こって、高温領域が拡大しました(図3‐3)。この高温領域は、もう一つの浅い低比抵抗層の下に位置することから、浅部の低比抵抗層がキャップの役割をに担い、水蒸気爆発のエネルギーがその場所に蓄積されると考えました。
図1:地磁気変動データ(黒)、月間火山性地震回数(赤)、膨張時期(黄)。 図2:地磁気変動量を説明する消磁源の位置。 図3:口永良部島の蓄熱過程。(1)2001年5月-2002年8月 (2)2003年6月-2004年8月 (3)2004年11月-2007年9月

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