4回草津白根火山集中総合観測報告書 序文

 

平成157月〜11月の間に実施した草津白根山第4回集中総合観測では,火山体の浅部構造の解明を一つの柱とし,人工震源を用いた地震探査,電気探査・自然電位測定,空中磁気測量などを中心に実施した.これと併せ,これまでの集中観測時に実施ししてきた地殻変動,精密重力,放熱量など測定も実施した.また,定常観測している火山ガス・湖沼水・温泉水などの繰り返し化学調査と温泉水および河川水として放出される揮発性物質量,山頂域からの二酸化炭素放出量の測定も行った.

国土地理院には,特にお願いして今集中観測時にあわせて水準測量およびGPS測量の再測を実施していただいた.また,産業技術総合研究所,宇都浩三氏にはおよび平成13年度に山頂で掘削した観測井のボーリングコアについての所見,同研究所牧野雅彦氏には,長年草津白根山周辺で実施している重力測定の結果についての原稿をいただいた.以下に各観測の結果について要約し,観測項目,実施期間,参加機関を第1表に示した.

 

草津白根山の最近の活動状況

火山ガスおよび湯釜湖水の化学組成:最近の山頂北側および殺生河原噴気の温度は高く,北側噴気ガス中の硫化水素濃度は,若干低下傾向にあり,活動の活発化を示している.湯釜湖水中の塩化物イオン濃度も2002年頃から増加傾向にある.ただし,増加の割合は1989年末からの活動期の増加に比べて小さい.

地震活動:草津白根山直下で発生する地震は110回以下と低調で,地震規模もほとんどがM-1以下である.また,震源は湯釜・水釜の下数100 m2 kmと,本白根山の下1 km2 kmの2ヶ所である.

地殻変動

GPSおよび水準測量を開始した1992年以降,草津白根山は山頂を中心に収縮している.収縮速度は,1992年―1999年に比べ1999年−2003年が大きい.地殻変動パターンは,山頂付近の地下1.5 kmにある球状圧力減の収縮で説明される.また,辺長測量の結果でも,山頂を囲む3測線で1992年−2003年の間に3.6 ppm/年〜2.0 ppm/年の収縮が観測された.

精密重力測定・絶対重力

南東山麓観測点および山頂の南東800 mGPS-5観測点で1992年−2003年の間に約0.04 mgalの重力増加が観測されたが,局所的変化で火山活動に関連する変化ではない.東京工大草津白根火山観測所での絶対重力測定による重力値は,979625.7090±0.00015 mgalであった.

熱活動

水釜北東方,湯釜北側斜面,湯釜火口内のそれぞれの異常域の面積と熱エネルギー放出率は,水釜北東方が,5800m22.3MW,湯釜北側斜面が,11600 m23.8 MWであった.湯釜火口内の異常域の面積は湖水に覆われているため明らかではないが,熱エネルギー放出率は,24 MWであり,山頂火口域からの熱エネルギーの放出率は30 MWを超えるものと推定される.1992年の測定値と比較すると湯釜北斜面において熱異常域の拡大が見られる.

全磁力

1989年から19919月にかけての活動期に消磁したと思われる場所で,1991年以降徐々に帯磁が進行している.また,19962月の湯釜内の小規模活動を契機に全磁力の変化傾向が変化した.

ボーリングコア観察

湯釜北東で掘削した深度200 mのボーリングコアの岩石学的観察によれば,地表では観察されない2枚の溶岩流と4枚の火砕流堆積物が見つかった.特に154.2 m以深の2枚の溶結火砕流堆積物は,噴火時に形成された陥没地形内をこの堆積物が充填しており,これが白根火砕丘東側に存在する直径2 kmの低重力異常を担っていると考えられる.また,湯釜北西で掘削した220 mのボーリングコアの観察では,142 m以深に基盤の第三紀火山岩類が分布している.

精密重力探査

白根火砕丘は西側に基盤の盛り上がり,東側に水釜溶岩円頂丘を中心とした直径約2 kmの陥没構造を持つ不均質な内部構造である.

人工地震探査

山頂で2点(薬量5 kg),山麓で1点(薬量30 kg)の発破を行い,山頂域57点,山麓域25点に地震計を展開した人工地震探査を実施した.

擬似反射記録法を適用すると,山頂域では500 m以浅に3つの反射面が検出された.最も深い反射面は草津白根山の基盤とされる第三紀安山岩に相当すると考えられ,南東から北西に向かって浅くなる.この傾向は重力探査の結果と整合的で,基盤構造を反映していると思われる.これより浅い二つの反射面は,噴出物の空隙率や流体飽和率などの違いによるものと考えられる.

初動到達時刻データを用い,2層構造を仮定したP波速度解析では,第1層および第2層の速度はそれぞれ1.0 kmおよび2.9 kmと見積もられ,第1層は白根火砕丘を覆う火砕物,第2層は溶岩に相当すると推定された.

AMT観測

草津白根山を東西に横断する測線で実施したAMT 観測によれば,湯釜以西では,標高1km以深に低比抵抗体が有るのに対して,湯釜以東では低比抵抗層が湯釜から東1kmを中心とした向斜構造を示し,それぞれ万座と草津の火山性流体の貯留部であると考えられた.また,向斜構造の翼部延長には,湯釜や殺生河原が存在しており,翼部に沿ったほぼ鉛直な断裂が関連している可能性がある.

電気探査

湯釜北側の噴気地帯の電気探査で,噴気孔直下の深さ100 mに熱水溜りと思われる低比抵抗体が,またその上位(深さ50 m)に蒸気溜りと推定される高比抵抗体が存在する.同様の比抵抗構造は,殺生河原噴気地帯でも確認された.

自然電位

山頂部には正の電位異常は認められなかった.山頂部から殺生河原を経て万代鉱温泉に至る自然電位は分布は,大局的に山頂側が低電位を示し,熱水系の発達した火山での期待される電位分布とは逆で,強酸性環境下でのζ電位の逆転の可能性がある.また,芳ヶ平ヒュッテから草津温泉への登山道沿いの測定では,芳ヶ平ヒュッテ周辺には負の電位異常域が,大平湿原に極浅部に起因する正の電位異常域がある.

空中磁気探査

磁気測量・構造解析から求められた磁化分布は,地質構造と良い一致が認められた.すなわち,高い磁化分布は溶岩流を反映しており,火砕丘や変質帯では低い磁化分布を示した.今後,高度の異なる空中磁気測量により3次元的磁化構造の解明を進める必要がある.

温泉水および河川水として放出される揮発性物質

 草津白根山周辺の温泉水および河川水として放出されるClおよびSO42量は,それぞれ27 ton/day70 ton/dayである.このSO42放出量は,火山ガスとして放出される硫黄化合物量の約10倍で,草津白根山では揮発性物質の大部分が温泉水および河川水として放出されている.

二酸化炭素放出量

山頂域における土壌表面からの二酸化炭素放出量は,噴気ガスとして放出される量の約30%にあたる1.4ton/dayである.草津白根山山頂域から放出されるCO2の総量は4.5 ton/dayである. 

 

本集中観測の実施にあたっては環境省,吾妻森林管理署,群馬県群馬県消防防災課,同県行政事務所,同県中之条土木事務所,同県防災航空隊,草津町をはじめ,地元の関係各位に絶大なご協力とご支援を賜りました.ここに記して感謝いたします.また,人工地震探査の実施にあたっては,経費の一部として東京大学地震研究所の経費を使用させていただいた.

 

 

1表 草津白根山集中観測実施状況

観 測 項 目

実 施 期 間

参  加  機  関

火山ガス等地球化学

8月〜9

東工大・北大

電磁気調査

9月〜11

北大・東工大・地磁気観測所

精密重力測定・絶対重力測定

9

東北大・北大・東大・京大阿蘇

精密重力探査 

10

産総研

人工地震探査

9/25-10/1

北大・秋田大・東工大・東大防災科研・京大桜島

 

 

京大阿蘇・九大・愛教大

熱測定

10

東大・京大桜島・東工大

辺長測量

11

東大・東工大

全磁力

7

地磁気観測所

水準測量・GPS

7

国土地理院

航空磁気測定

11

京大阿蘇,東工大

 

 

 

 

 

(東京工業大学 火山流体研究センター 平林順一)